第41回 日展(2009) 特選 「晨 翔」横山喜八郎 |
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神戸には珍しく雪の降った2月11日の前日、京都北山に在る横山喜八郎さんの工房を訪ねました。神戸は晴れていたのに北山に着くと小雪が舞っていて、18年前、初めて横山喜八郎さんの工房をお訪ねした日のことを思い出しました。平成5年2月初旬でした。翌3月20日から「丸太や」店内で横山喜八郎さんの最初の個展を開催していただくことになり、工房を見学させていただこうと訪問したのです。数日前に降った雪が溶けずに庭に残っていたのが印象的でした。横山喜八郎さんに個展を開催していただくことになった経緯は、その前年、型絵染の染色作家、伊砂新雄さんに、「丸太や」としては初めて染織作家の個展を開催していただき、そのご紹介で、横山喜八郎さんに個展を開催していただくことになったのです。 初めてお会いした横山喜八郎さんは温厚篤実な方で、「日展」の工芸部門の創設に尽力された染色家の皆川月華さんや、小説家の武者小路実篤さんとの交誼のご様子などを親しく聞かせてくださいました。日本現代工芸美術展で大賞を受賞された屏風や、額装された染額、訪問着や染帯などを拝見させていただいた後、製作現場に案内していただきましたが、「日展」に出品するための作品が製作中でした。私も家内も、横山喜八郎さんの人柄、創作への真摯さに心を打たれましたが、具象でも抽象でもない、横山喜八郎さんの心に映ずる心象が描かれた作品に強く惹かれました。 その頃、私たちはバイオリンがデザインされた着物や帯を探し求めていました。しかし探しても探しても見つかりませんでした。この世に無いなら創り出そうと考えたのです。しかし未だかつて無いバイオリンがデザインされた着物や帯を誰に創り出していただくのか。その時、横山喜八郎さんと出会えたのです。初めて横山喜八郎さんとお会いし作品を拝見し、この方こそバイオリンの着物や帯を創り出してくださる方だと私も家内も確信しました。 平成5年3月20日から「丸太や」店内で開催された横山喜八郎さんの初個展の会場には現代工芸会の会員の若い作家が多数来場されましたが、「私たちは足元にも近寄れない立派な先生なのです」とおっしゃられ驚きました。そんな大家であるなどとは微塵も感じさせられないのです。会期中、私は恐る恐る、バイオリンをデザインした着物や帯を探していること、しかし見つからないので、どなたかに創っていただこうと考えていること、横山喜八郎さんに創作を依頼できないかをお尋ねしました。「面白いテーマですね」と横山喜八郎さんは一言おっしゃいました。 それから4ヶ月が経った7月、横山喜八郎さんから荷物が届きました。中を明けると辛子色と深緑色の二本の染帯でした。もしかしたらと胸をわくわくさせて広げると中からバイオリン。バイオリンの帯が生まれ出たのです。「丸太やオリジナルコレクションコンサート」の第一作となった染帯でした。横山喜八郎さんとの出会いから生まれたバイオリンの帯。その第一作が「丸太や」の商売のその後の方向を決定付けたと言って過言ではありません。 あれから18年の歳月が過ぎ、横山喜八郎さんは日本の染色界を代表する作家として活躍し続けてこられました。平成13年「第33回日展」で栄えある特選を受賞され、平成20年「第41回日展」で再び特選を受賞されました。このたび、「日展」特選受賞記念として「丸太や」にて個展を開催していただく運びとなり、去る2月10日、「丸太や」に入社して初めて息子を伴って京都北山の工房をお訪ねしました。横山喜八郎さんのお話にも作品にも横溢した芸術家の気迫が溢れ、私も息子も圧倒されました。来る2月19日(金)から27日(日)まで開催する個展には、「第41回日展」特選受賞作品をはじめ、額装された染額、振袖、訪問着、着尺、帯、など、ロウケツ染めの技法を駆使した作品が多数出品されます。また横山喜八郎さんご本人が、時間の許す限り会場にお越しくださって、親しく作品の説明をしていただけることになっております。是非ご来駕ご高覧の程心よりお願い申し上げます。 |