五月だったか、六月だったか、京絞り染の寺田豊さんとお話をしていると、「一度、息子さんに、ものづくりの現場で勉強される機会をつくられてはどうですか。きっと、ものの見方が変わります」、とおっしゃられたのです。昨年四月、息子三木弦は「丸太や」に入社し、呉服屋人生を歩みだしたのですが、息子が呉服屋になることを決意したのが、信州上田の小山憲市さんの工房をお訪ねし、小山憲市さんのお話を聞かせていただいたのが機縁でしたので、息子の入社記念の個展を、小山憲市さんに開催していただきました。昨年三月、その準備を兼ねて小山憲市さんの工房をお訪ねした折、小山憲市さんが「弦(ゆづる)くん、夏に一週間ぐらい織物の勉強に来ないか」とおっしゃってくださっていたので、寺田豊さんから、ものづくりの現場で勉強することを勧められた時、小山憲市さんの言葉を思い出して、すぐにお電話を差し上げました。小山憲市さんは、二つ返事でお聞き入れくださって、八月の終わりに信州上田に行かせていただくことになりました。いよいよ訪問の時期が近づいてご連絡すると「一日に三度は着替えますので着替えは沢山持ってきてください。何せ汗だくになりますから」。息子は、何より小山憲市さんの織物は汗の結晶であることを肌で感じるでしょう。きっとどこかで涙の結晶でもあることを。
三木 久雄