桝藏 順彦さんと初めてお会いしたのは昨年の十一月でした。「ウチの帯はね、何にも言わなくても結んでもらったらわかります」自ら手がけた帯に対する、絶対の自信。それは研究に研究を重ねた努力に裏打ちされています。
 桝藏さんの帯は全て手機織。特に八寸のかがり帯や九寸の名古屋帯を精力的に制作されています。実は弊店も、お客様に一番楽に結んでいただけるということで、良い八寸の帯を探しておりました。しかし、なかなか出会えない。そんなとき、桝藏さんが、ご自分の作品展の案内を送ってくださったのがご縁の始まりでした。
 「本当に着物を着て楽しみたいというひとは、八寸や九寸名古屋帯を求めています。それが一番使いやすい帯だから。柄も縞や格子など、シンプルなものが良いと思っています。でも、だからこそ難しいんです。素材の良し悪しや織り手の技術がはっきり表れるから。」と言う桝藏さんの帯は、その一つ一つに、熱く語れるだけのこだわりが詰まっています。「この糸を経糸に使えるのは手機だけ」「これは吸湿性が抜群」などなど。桝藏さんの帯は一つ一つが個性豊かですが、それはただ単にデザインだけの多様性ではありません。糸の性質、織り方、染め方、それぞれに一長一短がある中で、どうしたら最高の持ち味を引き出せるのか、それを追求した結果なのです。「でもそれは全部、『どんなものを作りたいか』という思いがスタートです」と桝藏さんは語られます。
 他にない独自な帯作りを続ける桝藏さんですが、その一方で、伝統を受け継ぐものとして謙虚な姿勢でものづくりに挑んでおられます。「今のものづくりがあるのは先達の努力の積み重ねがあったからこそ。それを受け継ぐ者として、私の代で品質を落とすわけにはいかんのです」。
 品質にたいするこだわり、デザインに対するこだわり、それらすべては、着物を楽しみたいというひとに、本当に良いものを届けたいという思いの表れです。そんな熱い思いの詰まった帯だから、一本一本にそれぞれの持ち味があります。思いの強さが個性になるのです。たくさんの個性豊かな帯の中から、きっとお気に入りの一本を見つけていただけると思います。是非ご高覧ください。          三木 弦